• Impressive “Wording Atmosphere”
 ちひろ氏の文章の語り口に決定的に影響を与えている人々(下に☆を付けた人)がいる.彼がそう意識できるというだけで,本を読んでいれば誰からも何かしら影響は受けているものである.が,ここで挙げた(今のところ)4人については,ある時間集中的に文章を書いた時に読み返して「あ,あの人の文体が出ているな」と気付くことができる.
 これが「素晴らしいこと」であるのは,日常生活に例を取ってみるとよい.

 長い間一緒に暮らしてきた彼女がいなくなった.一人で起きる朝.寝室の窓辺で片手をかざしながら朝日を拝む.「今日もまぶしいなあ…」ふと,これは彼女が毎朝していた仕草だと気付く.へぇ,と笑みがこぼれる.

 これをふつう,「自分の中に彼女が息づく」と表現していると思う.自分の文章に特定の他者の文体が表れるのも,これと同じ様な経験ではないだろうか.その人を信頼しているほど,その人に強い憧れを持っているほど,自分の中にその人を見つけて嬉しくなるはずだ.
「誰も考えたことのない,新しいことを!」とあまり強く思っては,このような経験は味わえない.また,完全なる模倣ではまた意味が異なってくる.その両者のあいだ,自分がいて他者がいる,「自分の中に他者が息づく」という関係性が心地よいとちひろ氏は思う.

 また機をみて,ちひろ氏が書いた「他者の文体がうつった」文章を紹介しようと考えている.その他者の著作をある程度読みこなしていないと(本文の内容が分からない以上に)読んでいて分からない可能性はある.もし「あ,この人の本は良く読んでるよ」という人があれば,ちらりと覗いてみて頂きたい.内容ほったらかしでも,文体において「なるほどねえ」と言ってもらえれば,「他者に乗り移られた」甲斐があるというもの.書いている間は本当にするすると指が動いて,書き終えたそばから「これは自分が書いたのか?」と疑える経験というのは,一度味わってみると結構面白い.

 それを「個の境界が溶け出す感覚」と言ってよいと思う.

11.8.18


  • Mentors of Thinking
試みに,ちひろ氏がよく好む本の著者を分類してみる.
ここに挙げている方々は大体,読んでいて文体がするりと身体に入ってくる人で,
読みながら「なんかつっかえるな…」という経験がほとんどないらしい.

- 思いもつかなかったリンクの貼り方をする人
 ☆橋本治
 ☆
内田樹
  赤瀬川原平

- 文章の底に誠実さが溢れている人
  梨木香歩

  高村薫
  鷲田清一

- 感情に流されていない,冷静な文章を書く人
  小浜逸郎
  片岡義男
  諏訪哲二
  仲正昌樹(感情的な文章の多い著作もあるけど全然流されていない)
 ☆森博嗣
- アイロニーに風格のある人
  養老孟司
  池田清彦
- 病識をプラスに転化できる人
  春日武彦
  中島義道
- その妄想力を見習いたい人
 ☆
森見登美彦
- まだその凄さを理解できていない(説明できない)人
  
高橋源一郎
  矢作俊彦
  加藤典洋(まだ読んだことないので当然ですが)
- プラグマティズムの師匠
  鶴見俊輔(プラグマティズムは哲学でなく生き方である,と思う)

11.8.16
11.9.4追

BFR206



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